空間群の決め方

041215 S. Fushinobu

空間群の決定は構造解析の第一歩。私なりのやり方を書いておきます。

空間群の表を参考にしつつ読んで下さい

空間群の決定はおおまかに分けて3つの段階から成ります。

  1. ブラベ格子(<結晶系)の決定
  2. ラウエ群の決定
  3. らせん軸も含めた空間群の決定

おおまかに言って、1-2をindexing/scalingプログラムで、空間群はその後で決めます。場合によっては、初期位相(構造)を決めるまで空間群が決まらない場合もあります。

なお、現在私の周辺でよく使われているソフトウェアは、HKL2000 (昔は、indexing/integrationがdenzo、scalingがscalepackと名称を分けていた)、DPS/mosflm、CrystalClear(RigakuのR-axis用ソフト。d*trekが元になっている)等です。

1. ブラベ格子の決定

この段階では、回折点の位置の幾何学的な計算から、格子定数(結晶系)や複合格子に由来する規則的な消滅則を調べてブラベ格子を決定します。いわゆるindexing(と格子定数などのパラメータのrefinement)の段階です。ここではまだ回折強度の対称性は考慮に入れません。

Indexingの時に候補のリストが出てくるので、まずは対称性の最も高いものから選ぶ(対称性の順に並んで出てくるはずです)。

最高の対称性を持つ候補が、理想値からわずかにずれていて、正しいかどうか微妙な場合(ex. tetragonalでabがわずかに違う、orthorhombicで角度が90°とわずかに違う等)、まずはそのブラベ格子で処理を進めてみる。間違っている場合には、cell constant等のパラメータのrefinement時か、integrationの時に、ズレに気づくはず。Monoclinicで、βが90°にめちゃくちゃ近い、という嫌な場合もある。

注:P TrigonalやP Rhombohedralは軸変換すればa=b, α=β=90°, γ=120°の格子にできるので、P Hexagonalと一緒に扱う場合が多い。
  また、その場合、R3やR32は、H3およびH32と呼称します。Hにした場合、Rの時に比べて単位格子のサイズが3倍になります(つまりZも3倍)。

2. ラウエ群の決定

この段階では、等価な回折点の間で回折強度のスケーリングを行い、逆格子点の対称性(ラウエ群)を決定します。いわゆる(integrateの後の)scalingの段階です。

まずは、同じブラベ格子を持つ空間群のうち、最も高い対称性を持つラウエ群の中の空間群(どれでもいいけど、リストの一番上のやつを使うのが普通)でscalingをしてみる。成功すれば(Rsym < 15%が目安)、そのラウエ群で確定。失敗すれば(Rsym > 40%くらいにはなる)、もう一つ対称性の低い空間群を試す。

例:P Tetragonalの場合、まずラウエ群4/mmmのP422でscaling。だめならば4/mのP4でやる。

注1:プログラムによるかもしれないが、少なくともHKL2000では、ラウエ群を変えてscalingをやり直すときに、ingegrateまで戻ってやり直す必要はない。

注2:データセット中のイメージファイルが多くintegrate/scalingに時間がかかる場合には、迅速なラウエ群判定のために、一部分(例えば、最初の20枚)だけを用いてもよい。

全てのラウエ群で失敗した場合、1.に戻って、対称性の低いブラベ格子を試してみる。

P Hexagonalの場合:この場合は少し特殊。P622→P6→P321とP312→P3の順に試す。P312とP321は対称性において上位/下位の関係にない独立したラウエ群に属するので、やるときは必ず両方試す。

なお、この段階でZが分かるので、Bernhard Rupp先生のサイトリガクのサイトを用いて非対称単位(asymmetric unit, 通称アシメ)中の分子(サブユニット)の数を見積もっておく。

3. 空間群(らせん軸)の決定

この段階では、結晶中のらせん軸に由来する、回折点の消滅則を調べて、空間群を絞り込みます。

例えば、P6やP622の場合、(0 0 l)の反射を見る。

l=6の倍数でしか出てない場合には61か65らせん

l=3の倍数でしか出てこない場合には62か64らせん

l=2の倍数でしか出てこない場合には63らせん

全て出ている場合にはらせんなし

前2者のような場合には、反射からだけでは空間群を完全に決定することは不可能で、その後の初期位相の決定時に判明することになります。MIR/MAD, MRなどの手法によって状況は異なりますが、可能性のある空間群を全部試す、という力技でも、一応、なんとかなります。

P422の場合には、(0 k 0)と(0 0 l)の2つの軸で消滅則を判断する必要がある。

P2221P21212の場合には、らせんがある/ない(他の2つとユニークな)軸がどれかを探すのに多少苦労するかも知れません。P222やP212121の場合には、短い順にabcとつければいいので簡単なのですが。軸のreindex時には、hkl→lhkやhkl→klhのようにpermutationをするように変換して、手系を裏返しにしないように。

複合格子に由来する消滅則のために、らせん軸の消滅則が見えない場合があります。例えば、I222とI212121の場合、体心格子のために出る消滅則が邪魔して、判定が不可能。

消滅則が実際にあるかどうかを見るには、CrystalClearには専用のルーチンがありますし、HKL2000の場合には、らせんのある空間群でscalingするとログファイルの最後にI/sigma付きのリストが出て来ます。あるいは、処理後に出てくる反射ファイル(大抵はmoreやテキストエディタで閲覧できるasciiファイルのはずです)を眺めることでも可能。GUIで見たければ、intensityを残した.mtzファイルを作って、hklview foo.mtzで疑似プレセッション写真を見られる。(hklviewはccp4に入ってるけどccp4iから起動できないので。コマンドプロンプトから起動する)

データ測定時の結晶の向きや、測定した範囲などによって十分に消滅則が観測できない場合があります。その場合には、結晶の向きを変えてもう一度測定するか、その後の構造解析の時に可能性のある空間群を全部試すかのどちらかを選ぶ。分子置換(MR)の場合には、最近はコンピュータが速いので、後者を選択するほうが楽かも(でも、completenessは高いほうがいいですよ)。なお、一般的に、結晶のマウント時に軸はきっちり立てない方が消滅則を観測しやすいです。

注:非常に特殊な場合(疑似対称が存在する場合など)には、Rsymだけで空間群を判断すると間違える場合があります(E. Carredano et al. Acta Cryst. D56, 313-321, 2000)。


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