結晶が出来たのに分解能が悪い時

050913 A. Maruyama
summarized by S. Fushinobu

2017.4.12追記:まずは諦めずに抗凍結剤を色々試すべき! → KEK IMSSニュース 原著論文 (Senda et al., 2016)

結晶が出来たのに、分解能が悪い時は、できた結晶に後処理をすることにより分解能が上がる場合もあります。その他の方法は、このページの最後を参照のこと。

  1. Begona Heras and Jennifer L. Martin. "Post-crystallization treatments for improving diffraction quality of protein crystals" Acta Cryst. (2005) D61 (9), 1173-1180 [DOI] [Wiley]
  2. Janet Newman "A review of techniques for maximizing diffraction from a protein crystal in stilla" Acta Cryst. (2006) D62 (1), 27-31

以下の内容は、上記の1. の総説の要約です。詳しくは原典をあたって下さい。

結晶化後処理(Post-crystallization treatment)として有効なものは主に以下の3つ。

  1. アニーリング(Crystal annealing):瞬間冷却した結晶を常温まで戻し、再度瞬間冷却する方法
  2. 脱水処理(Dehydration):沈殿剤(precipitant)あるいは抗凍結剤(cryoprotectant)の濃度を上げたり、蒸発または蒸気拡散により、結晶中の溶媒含量を減らす方法
  3. 架橋処理(Cross-linking):glutaraldehyde等の架橋結合剤を用いる方法

各方法についてもう少し詳しく説明する。

1. アニーリング法

主に3種の手順が用いられている

  1. Macromolecular crystal annealing (MCA):クライオ冷却した結晶を低温ガス流から外し、3分間300μLの不凍液(cryoprotectant solution)に浸し、再度低温ガスで冷却する。
  2. Flash-anneling (FA):低温ガスを1.5〜2秒遮断する。6秒間隔で3回行う。
  3. Annealing on the loop (AL):低温ガスを結晶が透明になるまで遮断し、その後冷却する。

文献データを検討した結果、

2. 脱水処理

5種の手順が知られている(注:各名称は伏信が勝手につけたものです)

  1. 移動・蒸発法:母液に順に濃度の高くなった沈殿剤あるいは抗凍結剤(PEG400, glycerol,MPDなど) を追加した脱水溶液を作り(50μl)、連続的に結晶を高濃度の脱水溶液に移動させて いく。結晶の安定性に従い脱水剤の濃度は5%〜30%間隔、0.5〜5%間隔、あるいは1, 2, 3, 4, 5, 10, 15, 20%の順で上げていく。浸漬時間は5〜15分間(この場合、結晶は空気中で脱水させる)、あるいは2日以上(この場合、移動・蒸気拡散法のように、脱水溶液をリザーバー液としてハンギングドロップを作って平衡化する)。
  2. 添加・蒸発法:結晶化条件の溶液に、さらに10〜12%増しの沈殿剤と5〜10%の抗凍結剤(glycerol等) を添加した脱水溶液をドロップにゆっくり添加する(結晶化ドロップの8倍体積まで)。空気中で脱水を30分以上続ける。
  3. 移動・蒸気拡散法:結晶を別の5μLのドロップ(結晶化条件の溶液にさらに5〜10%の沈殿剤を添加した脱水溶液)に移し、同じ脱水溶液のリザーバー液に対して再度 hanging dropを行う(12〜16h)。
  4. リザーバー交換法:母液に順に濃度の高くなった沈殿剤あるいは抗凍結剤を追加した脱水溶液を作る(5%きざみ)。カバースリップをこの脱水溶液をリザーバー溶液とする条件に連続的に移していく。各々のインキュベーション時間は8〜12時間とする。壊れやすい結晶は4℃で行う。
  5. 非蒸発・蒸散法:成長した結晶をより高濃度の沈殿剤を含む新しいドロップに移し、1〜5ヶ月間インキュベートする。その後に、別種の沈殿剤との混合液(例:硫酸アンモニウムとPEG3350)に浸漬し、1〜10週間インキュベートすることでさらに改善が見られる場合もある。

いずれの方法でも分解能が劇的に改善する場合がある。アニーリング法と組み合わせてもよい。

3. 架橋処理

手順:ハンギングドロップ法で結晶を成長させた後、新しいウェルに同じリザーバー溶液と2〜5μLの25% glutaraldehyde pH 3を乗せたmicrobridge(Hampton Research)を入れたものを用意し、そこに結晶入りドロップのついたカバースリップを移す。30〜60分平衡化することにより、架橋剤は蒸散してドロップに入る。その後、さらに新しいリザーバー溶液の入った別のウェルを用意してそこにカバースリップを移す。

分解能の上昇よりも、モザイク性が下がることが期待される。架橋点であるリジン残基の総数と結晶中の位置により影響は異なる。

実際の適用例

常温と低温(100K)でのX線回折の質により、推奨される方法が異なる。

その他の方法

  1. 新しい結晶化条件を探す(基本)
  2. プロテアーゼによる限定分解:詳しくはこちら
  3. 蛋白質の端を切る
    1. His tagや短い配列を切ったり、ドメインごと切ったりする
  4. アミノ酸置換する
    1. 表面のGluやArgをAlaにする(Structure 2004 Apr;12(4):529-35)。機能解析のために作った変異体を全て試してみる(成功例多数あり)。
    2. 表面のLysを置換する。これとかこれとかこれとか。
    3. このサーバーが参考になる?
  5. 結晶化温度を下げて結晶成長を遅らせる。4℃が一般的に試されているが、グリセロールやエチレングリコールを入れて氷点下で結晶化することも可能。(Transducin-αで成功例あり)
  6. Micro X-ray beam(5-10μm)を用いる。結晶の場所によってはいい反射が出ることがあるらしい。
  7. 添加剤(Additive)を加える(つまりadditive screeningをせよ、ということですね)。
    1. Detergentやグリセロール、エチレングリコール、NDSB(NDSB 211NDSB 195が売られている)を加えてみる。グリセロール30%以上、というのも試してみるべき、らしい。
    2. リガンド、補酵素などを加える(基本)
    3. 2価金属イオンや重原子などを加える(Hg, Au, Pd, Pt, ランタノイド等)
    4. 還元剤(β-ME, DTT, TECP等)を加えるか、濃度を上げる
  8. 蛋白質を修飾してみる。アセチル化(無水酢酸など)、アシル化(Cysがあればヨードアセトアミド)、還元的メチル化、など。でもさらに精製が必要。
  9. あきらめてホモログ(オルソログ)を結晶化する(実はこれが一番効く!?)


戻る