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電子密度図が得られたらこれを解釈する必要があるのですが、これがかなり面倒な仕事です。仕事がここまで進むと、今まで漠然としていた目標がハッキリし てきますし、競争相手がいる場合はかなり焦ったりします。また、この部分は実験者が一人(もしくは数人)で電子密度図と取り組んで、多くの場合は経験を元に電子密度の(文字通り)”解釈”をするわけで、客観的基準が極めて曖昧な部分です。もちろんポリペプチド鎖が一本につながっている訳なので、ちゃんとN末端からC末端までつながっているのがハッキリ見えれば何の苦労もないわけです。しかし通常の場合、分子中に何カ所か電子密度図の見えない部分がありこれが解釈をやっかいにします。また、分解能にもよりますが、側鎖の見え方もまちまちで、はっきり見えることろ、何となく大きさはわかる所、見えないところと色々あり、電子密度に対する一次構造のアサインメントも少々手こずることもあります。このような状況で、色々と悩み始めるとモデル作りが遅々として進まず、何となく怪しいと思いつつも、苦労して作ったモデルをさっぱり捨て去る勇気もないし、と言った状況に陥りかねません。そこで、細かいことを述べる前に一般的な注意を。
以下細かいことを述べます。
既に似た構造が解かれている場合
分子置換法も、総ての場合にうまくいくわけではないので、少し頑張ってちっとも埒があかない場合は、さっさと重原子誘導体を作るように指導するわけですが、このような場合、分子置換法がうまくいかなくても立体構造は当然似ていると期待されるわけです。そこで、電子密度の解釈もそれを考慮してさっさと行うこと。まずミニマップや、自動のchain traceの結果をよくみて、2次構造の配置から分子の全体像をつかみ、さっさとモデル分子の座標を電子密度に”hand molecular replacement”で入れます(ミニマップの作り方は、次節参照のこと)。モデルの作成は、違いの小さい2次構造部分から始め、ループ部分はomit mapなどを使って組み立てる。電子密度図だけみて解釈していてもしかたないです。カンニングすべきはカンニングしましょう。但し、何かおかしいと思うときは注意すること。周りの人にも見てもらって、総合的に判断を下すように心がけること。
全く新規の構造の場合
最初にすることは、分子の境界線を決定することです。ミニマップを使って、どの部分が1分子に相当するかよく見て判断します。このときはユニットセル分くらいの範囲を出すと良いでしょう。大づかみにpackingを知ることは大切です。当然、解釈がついていない場合にはっきりと境界を決めることはできませんが、常識的に考えればだいたいのことはわかるはずです。
次に、一分子に相当する部分をなるべく大きくミニマップに出します(分子境界を決めるのに使った電子密度はもういりません。あげるから青春の思い出か、田舎へのお土産にでもしてくれ)。この段階では、2次構造をミニマップを見ながら探していきます。もちろん、QuantaのX-fitをやってtraceをしてもかまいません。ミニマップ上で二次構造を見つけることができたら、Quantaを使って、どんどんモデルを(Cαだけでよい)を作ります。大切なことは、ややこしいループ部分にはまりこまずに、じゃんじゃんと2次構造部分の主鎖のモデルを(Quanta上で)作ることです。α-helixの部分は、比較的N末、C末の区別が付けやすいですから、わかり次第その部分に標準的なα-helixのpoly alanineモデル(Quantaで作れる)を入れてしまうこと。これがわかりにくい部分(特にβ-strandの部分)は、α-carbonのみを入れていきます。2次構造をだいたい入れたら、何残基くらい入れてどのくらい残っているかを確認します。これにより、まだいくつかα-helixがありそうだなとか色々な事がわかります(ループは一残基あたり3.8A位になりますが、α-helixの場合は狭いところにはるかに多くの残基が入り込むわけで、残りの残基数を考えれば結構色々なことがわかる)。
8〜9割の残基の位置がわかったら解釈に入ります。まず、1 letter codeでアミノ酸配列を書いた物を用意します。次に、芳香族アミノ酸、アルギニン、リジン、プロリンなど、特徴のあるアミノ酸を違う色で分かり易いようにマークします。S-S結合がわかっている場合は、これもマークしておきます。馬鹿みたいですが、これが結構、効率的に仕事を進めるのに役立ちます(大切なことです。作業はさっさと終えて、頭を使おう!)。セレノメチオニンを使った場合は、まずその位置から決めて行きます。メチオニンの周りの残基、メチオニン間の残基数を考えれば、何カ所かはそこが一次構造上どの部分かがわかるはずです。解釈はこれらの点を中心に行っていきます。一般の場合には、特徴のある残基から解釈を進めます。分かりやすいのは、芳香族アミノ酸とアルギニンです(だから、一次構造の表でマークしたのです)。芳香族アミノ酸では、トリプトファンとタイロシン、フェニルアラニンの区別は容易です。但し、タイロシンとフェニルアラニンの区別は、電子密度が悪いときは困難です。また、アルギニンは、長い比較的はっきりした電子密度を与えることが多く、以外と分かりやすいと思われます。これらのアミノ酸を同定してから(当然この段階では、残基番号はわからない)、その周りのアミノ酸配列と電子密度を比較することで、そこがどの部分かを決めていきます。だいたい当たりがついたら、さっさと主鎖に沿って側鎖の電子密度に一次構造に従ってモデルを当てはめていきます。合っていれば、おもしろいように側鎖が電子密度に入って行くはずです。この時、少しくらいのフィトの甘さには目をつむります。今見ている電子密度には色々なエラーが入っていて当然で、完璧な物ではありません。あまりにもめちゃくちゃではどうしようもありませんが、大半が合っているのならよしとします(間違ってればまた後でわかるでしょうし、モデルを作りなおせば済むことです)。10残基ほど入れたら電子密度を見慣れている周りの人にチェックしてもらいます。なるべく、第三者の公正な目でチェックしてもらうように心がけ、あまり一人で煮詰まらないように。じゃんじゃんモデルを作って、その中から正しい物を選ぶくらいの方法でやった方が早いでしょう。
主鎖のモデリングは、できる限り標準的なモデルを使って作るようにします。つまり、二次構造部分に関しては、Quantaにαヘリックスやβシートの標準構造を作らせて二面角をできるだけ動かさないで電子密度に合わせるように心がけます(たくさん動かすのなら、Quantaに標準構造を作らせた意味がない!)。特に、βシートはねじれている事が多いのですが、最初はextendしたβシートの標準模型をQuantaで作り、N末かC末を合わせ、電子密度に合うように少しずつ二面角を回すことで電子密度に合うようにねじっていきます。要するに、あまり二面角をごちゃごちゃといじっても、きれいなモデルはできないと言うことです。よくわからない人は、今までに解けてい構造のラマチャンドランプロットを見てみましょう(procheckで計算できる。Quantaでもできる。)。二面角の分布はそれほど散らばっていないことがわかると思います。また、ファイとプサイ ともに、取れる角度の範囲が決まっていますから(オメガは当然約180度)、それをよく覚えてから、モデル作りに入るようにします。めちゃくちゃな二面角をもつモデルを作っても後で苦労するだけです。特に、決まった二次構造を持たないループ部分のモデリングには注意します。ループ部分はラフに組み立てたら、Quantaのfragment searchを使ってみるのがいいでしょう。うまくいけば、ドンピシャリの構造が出てくるはずです。何回も繰り返しますが、自分でごちゃごちゃ二面角をいじるよりも、標準構造やデータベースをうまく使ってモデリングするのが、早くきれいに造るこつです側鎖に関しても、基本的には同じです(特に、アルギニンやリジンなどの長い側鎖)。
以上の様にしてモデルを組み立てて行くわけですが、一分子中にどうしても見えない部分が出てくることは、よくあることです。このような部分は、無理してモデルをいれる必要はありません。見えないところは、見えないとして残しておくことが大切です。場合によっては精密化の過程で見えてくる場合もあります。これは、電子密度が不鮮明でうまく主鎖のモデルが作れない部分に関しても同様です。無理に全部作らず、見えるところをその通り作るようにします。