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いろいろ考えて作戦を立てることは可能ですが、特別の場合を除いて、机上の空論です。次のように実験を進めるのが良いと思われます。
0)結晶を山ほど用意しておく。結晶の供給が途絶えては、お話になりません。どんどん精製して、結晶化するべし!!
1)成功の確率の高い物から始める。要するに、K2PtCl4, Uranyl Acetate, Sm系、Mersaryl, PCMB, HgCl2、Au等を試す。これらのなかから、1つぐらいは上手くいく物が出てくるのが普通です。
2)1)で1つもあたりのでなかった場合、もしくは、あたりが1ー2個しか無かった場合は(通常新規の構造を得には、確認の意味も込めて3ー4つは重原子が欲しくなります)、しかたがないので重原子探索用シートを使って探索を行います。全部で80-90種有りますが、気合いをいれて一日10個やれば、2週間もあれば終わります。うだうだ考えて時間を浪費するより、よっぽど早いです。この段階では、Soakingによって、結晶が割れるか否かを確かめるだけでOKです。
3)予定と相談しつつ、R-AxisIIcでデータを集めます。R-Axisが空いていないときは、プレセッションを使って強度変化のチェックを行います。
世の中では、重原子同型置換体の探索が”めんどくさい”ことになっていますが、これは嘘です。怠けず、結晶の供給を絶やさないようにして実験をすれば、そのうち見つかるはずです(まあ見つからないこともあるけど)。とにかく、あれこれ言い訳せずどんどん実験すること。ぶつぶつ言っていても重原子同型置換体は見つかりません!!
#)重原子試薬にはかなり似たものが有ります。例えば、HgCl2とHgNH2Cl等がそうです。これらは、多分、同じサイトに入る可能性が高いので、探索の順序としては、HgCl2が使えるとなったら、これとは性質の違ったものを探した方が良い。同じサイトに入っては、重原子誘導体の数は増えたけど、位相決定の為の情報は、たいして増えないということに成ります。もちろん、これは探索の順番という観点から言っているわけで、全く無意味と言ってるわけでは有りません。もちろん、ちょっとした改善は見込めるかもしれない(まあ悪く成るかもしれないけど...)。探索の際には、重原子試薬をケミカルな性質に基づきグループ分けをして、ちょっと頭を使って、効率的にやりましょう。
1)重原子溶液の作成
重原子溶液は、Standard bufferに重原子を溶かした物です。重原子を溶かすことによってpHが変わるので、pHをきちんと合わせることが必要です。重原子溶液は使っても一回に数100mlなので、1ml程度作れば上等です(エッペンチューブに作る)。少量ですから、pHは微少電極で測定します。通常の電極と微少電極でpHの読みがずれていては、洒落になりませんので、不安なら校正曲線を作ってから実験をした方が良いでしょう(条件の厳しい場合には必ずやること)。つまり、Standard bufferのpHを中心に、pH0.5刻み程度で2-3本の標準緩衝液を通常電極を用いて作ります(つまり、いつも使っている方の電極を標準に取る)。同じ液のpHを、微少電極を用いて測定します。その後、両電極の関係を示す校正曲線を作成し、その校正曲線を見て、重原子溶液のpHを合わせます(通常電極と、微少電極の読みが一致していなければ、例えばpH6.5に合わせたい時、場合によっては、微少電極の読みは、pH6.4に合わせないといけない場合もあるわけです。)。また、古い微少電極は、pHを正しく測らないこともあります。重原子同型置換体の探索をしている時、微少電極が古いと思ったら、迷わず、新しい電極を発注すること(重要!!)。
重原子溶液は毎回実験の度に作り替えます。化合物によっては、時間と共に錯体を形成したりして、作りたての時と変わってしまう物が有るそうです。
もう忘れているかもしれませんが、重原子は、pHや共存するイオンの関係で溶けない場合があります(高専や高校で習ったはず)。受験生ではないのでもう忘れていると思いますが、これは大切なことです。たとえば、鉛はアルカリ溶液には溶けないとかいろいろあります。重原子溶液を作ったが、どうも溶けないという時は、がむしゃらにボルテックスかけてないで、溶解度をメルクインデックスでチェックしましょう。
最後に、非常に重要なことです。残った重原子溶液は、絶対に水道に流してはいけません。所定の場所に捨てて下さい。廃液に関してはむちゃくちゃをすると全学的な迷惑になることを肝に銘じること。
2)soakingの仕方
要するに、結晶を重原子溶液に移せばいいのですが、その後の観察をするように。物によっては、soaking後、即座に結晶が割れたり、ひびが入ったりします。この様な場合には、確かに重原子の影響であることを確認すること(つまり、pHが違っていたというようなへまをしていないかきちんとチェックせよということです)。
3)重原子溶液の濃度について
最初は、10mMから始めます。結晶が割れるようなら、様子を見つつ、5mM, 1mM, 0.1mMといったように濃度を落としていきます。溶解度が低い場合は、溶けるだけ溶かして遠心し、上清をとってそれを100%飽和溶液とし、それを薄めて濃度の違う溶液を作ります。
4)データ測定について
R-Axisでデータを収集する場合、3-4枚集めたところでデータ処理し、Scaleitを用いて、RFを計算します。ここで、強度変化が無いようなら(つまり、RFが5-7%程度である)、重原子が入っている可能性は低いので(たとえ入っていても、位相決定には、使えない可能性が高い)、測定を打ち切った方が良いでしょう。ですから、測定に入る前に、5-6種類の重原子置換体結晶を用意しておき、ダメなら次の重原子置換体(かもしれない)結晶に乗り換える方法をとって下さい(なんと言っても、マシンタイムがぎっちりなので、各自が効率的に(というか頭を使って)実験しないと仕事にならんぞ)。
もう一つ重要なことは、格子定数の変化です。0.5%以上変化していては、良い結果は期待できません。R-Axisの出してくる格子定数の値が不安なら、プレセッションを取り、Nativeの写真と重ね合わせれば、変化の有無はすぐ分かります。