mlphare : 重原子位置の精密化

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 幾つかの重原子が見つかったら、mlphareを用いてそのサイトを精密化し、強引に位相をつけます。

 さて、P212121などの場合は問題ないのですが、手系の問題がある場合には少し厄介です(例えば、P3121とP3221)。手系を決めないことには、電子密度の計算が出来ません。手系の決め方は幾つか考えられますが、基本的には、(1)考えうる手系両方(例えば、P3121とP3221の両方で)で位相を決め、(2)両方の空間群で差フーリエ図(重原子サイトを見つける)や電子密度図を計算し、(3)マップを見て、ピーク、電子密度の高い方を正しい空間群として採用する、というようにやります(差フーリエの場合、正しい空間群でやると間違えている方と比べるとかなり高いピークが出ます)。要するに、正しい空間群で計算を行えば、より正しいマップが得られるであろうという考えに基づいているわけです(アバウトだけどこれで問題ない)。ここで注意しなければいけないのは、出来るだけ自己言及的になるような計算を避けることです。例えば、重原子のマイナーサイトを拾うために、自分自身のメジャーサイトを使って位相を決めて2種の手系でそれぞれ差フーリエを行った場合には、多分正しい判断を下せるとは思いますが、あまりそれを楽観的に信じてしまうのも心配です(自分の決めた位相で自分自身のマイナーサイトを拾おうとしているところが自己言及的である)。この様なときは、別の重原子誘導体のデータを用いて、差フーリエを行い手系を決めた方が良いでしょう(図参照)。何にしてもここで間違えては、永久に答えは得られませんから色々な方法で手系を決める努力をして、確実に決めるようにしましょう。

 マイナーサイトはに示したように決めます。これだと自己言及的になって少々気持ち悪いですが、重原子のデータ(パターソンのある程度解けたもの)が1つの時は仕方ありません(最初のメジャーサイトが正しければ、気持ち悪くてもちゃんと解けます)。2つある時は、当然位相をクロスさせて使った方が良いでしょうし、確認の意味でも、そのような計算をやっておくと良いでしょう。

 ここで、mlphareの出力の見方を簡単に書いておきます。まず、計算が終わったら、アウトプットの一番最後に重原子位置を精密化した結果が出ているのでここを見ます。見るべきは、(1)座標が大きく変わっていないことを確認する(いくらなんでも、分率座標で0.1もは動かない。考えても分かりますが、まともなら、0.01のオーダーの動きです)、(2)Occupancyを見る(スケーリングが適当なら、0.1以下というのは少し考えにくい。)、(3)温度因子を見る(80とか100というのは少し怪しい。メジャーなサイトなら50以下ぐらいになるのが普通。もちろん色々あるので、値が大きいから即おかしいとは言い切れません)、の3点です。もちろん他にも色々な値が出てますから、その値が何かは各自勉強すること。

 次に、もう少し上の方のアウトプットを見ます。主に見るべき値はRcullis, phasing power そして Figure of meritの3つです(値の意味は各自調べよ)。特にRcullis (Rc)の値を注意してみて下さい。この値が(総計で)0.6以下ならなかなか良い結果といえます。0.7以上になってきますと、若干位相を決めるのには力が足りません。もちろんこの様な値でMapを計算してもそれらしいマップは得られますが、解釈が大変でしょう。だいたいこの様なときは、重原子のデータが悪い(同型性の悪さも含む)ことが多いようです(多分、scaleitの結果があまりきれいでは無いはずです)。一般にMIRでは、3〜4つの重原子を使いますが、1〜2個が、Rcが0.6以下くらいに成れば、きれいな電子密度が描けると思います。

 Phasing powerは、2.0以上なら大変良い値です(大きい方がいい)。だいたい1.5前後の値で並といったところでしょう。1.0以下なら悪いです。Figure of meritは、重原子誘導体の数を増やせば、電子密度に大差が無くても少しずつ大きくなってしまうのであまり大きくなったといって喜んでばかりもいられませんが、トータルで0.7以上に成ればかなり良いといえます。逆にMIRで位相を付けておきながら低角領域のcentricな反射でFigure of meritの値が0.7も無いようですと、はっきり言って怪しいです。通常、低角領域のcentricな反射のFigure of meritは、まともなら0.9以上に成るものです(SIRの時は、違います)。

 上に書いた値を注意深く見ていけば、重原子の精密化が上手く行っているかどうかは分かるはずです。しかし、最終的には電子密度図が解釈できないといけないのですから、位相がきちんと決まったかどうかの最終的な判断は、電子密度図を見て考えるということになります。最初の内は、精密化の結果得られた値が果たして良いのか悪いのかは、上の記述だけからは、なかなか分かりにくいと思われます。そのときは、分かる人に聞いて、感触を勉強しつつ、解析を進めて下さい。

 また最近は、DMなどのDensity modificationのプログラムが発達してきて、その威力は大変強力です。たとえ、一個の重原子誘導体であってもその重原子位置がきちんと決まっていれば、異常分散の効果を考慮しなくても、SIRで決めた位相から計算した電子密度図に対しいきなりDMやSQUASHをかけることで、分子の境界をしっかりと知ることができます。逆に言えば、これできちんと分子の境界を知ることができないようでは、この重原子同型置換体の位相決定能力はたかが知れてますから、ごちゃごちゃ計算してないでさっさと次の重原子同型置換体を見つける努力をした方が、最後の電子密度図の解釈が結局は早くできるということになるはずです。

 Density modification について若干触れましたが、density modificationを行うプログラムにも限界があります(DM等)。元々悪い重原子同型置換体しかない場合は(要するに、初期位相が悪い場合は)、いくら計算しても(現状では)ダメです。実験して、良質な重原子同型置換体を見つけて下さい。X線結晶構造解析は計算ではありません。実験です。肝に銘じよ!!