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解釈可能な電子密度図が得られるのか?

 では、density modificationを用いた手法では、解釈可能な電子密度を得ることは無理なのでしょうか?実際に、SIR, SAS等の電子密度図にdensity modificationを施すことで、立派に構造を決定している例が多く報告されています。要するに、上手く行くことも多いと言うことです。では、何故SeMetの例では、そのような電子密度図が得られなかったのでしょうか?BphCの場合、金の重原子誘導体によるSIRの位相を元にdensity modificationを行った時には、解釈が出来そうな電子密度が得られました。また、MIRの電子密度にdensity modificationを施したものは、非常にきれいな電子密度で、容易に解釈できる質の電子密度図でした。

 では、何故このような差が出るのでしょうか?一般に言われていることですが、 density modificationの効果というのは、初期位相によるところが大きいのです。つまり、初期位相がよければ、density modificationによってdensityの改善が望めますが、初期位相が悪ければ、いくらdensity modificationをやったところで、正解にたどり着くは難しいと言うことなのです。この場合の初期位相という言葉には、位相角の正確さということの他に、figure of meritの適正な見積もりということも含まれます。この見積もりが悪いと、やはりdensity modification は上手く行きません(確認済み)。

 一般にdensity modificationを行うと、figure of meritの値が改善され(要するに大きくなる)、あたかも位相が良くなったかのごとくの印象を与えます(figure of meritのわからん人は勉強すべし)。しかしこれは、全くナンセンスです。重要なのは、そのfigure of meritの増加分に見合う位相角の改善が実際になされているかどうかであって、figure of meritの値そのものに、位相の改善を示す積極的な意味はありません。要するに、figure of meritは、フーリエ変換を行う際に個々の反射にかかるweightですから、figure of meritが大きな場合には、それに見合った正確な位相である必要があります。もし、figure of meritと位相角の正確さの間に相関が無ければ、得られる電子密度図はfigure of meritの値の大きさに反して、粗末なものになってしまいます。これに対し、たとえfigure of meritの値が小さくても、その見積もりが正確であれば、正確な電子密度図を得ることが可能です。

 では、FOMの値はdensity modificationによってどのように変化するのでしょうか?また、FOMの見積もりは適正に行われるのでしょうか?これらの事を調べてみると、以下のような事がわかりました。

 つまり、現状では、潜在的に悪い初期位相を用いてる限り、いくらdensity modificationをやったとことろで、正しい位相角及び適正なFOMの値を得られるとは思えません。逆に言えば、現状ではdensity modificationには、”正しい”初期位相が必要であると言うことになります(これは、必ずしもFOMが大きいと言うことを意味しない)。

 では、位相の良否は何を基準に決定すれば良いのでしょうか。今まで述べて来たようにFOM等の統計値はあまり役に立たない以上、電子密度図を見て判断する意外に方法はありません。どのようにして判断するかというと、電子密度中に、αヘリックスやβシート等の2次構造が見えるかどうか、というのが一般的な判断基準です。もしこれらの2次構造が電子密度中に見えるのならば、その電子密度はもっともらしいし、位相も信頼できるものといえます。逆に何の2次構造も見つけられず、何やら意味不明のペプチド鎖の様なものがうねうね見えるだけならば、その電子密度は信頼できませんし、位相もとうてい信頼できるものではありません。

 何だか、density modificationをやるなと言っているみたいですが、別にそう言う意味ではありません。良い初期位相を持っているのなら、どんどんやって下さい。但し、あまり計算に溺れないようにすることです。ろくな事はないよ(もちろん、プログラム作るんだというのならどんどんやって欲しいけど。。。)。