では、このようなdensity modificationは、どの程度まで有効なのでしょうか?重原子誘導体がとにかく見つかり、初期位相が付いた段階でdensity modificationは、有効なのでしょうか?これに対しては、「無理な高望みをしなければ、有効である」と言えます。つまり、初期位相の決定がある程度正しく行われていれば、DM等を用いて分子の外形を得る程度のことはできると言うことです。逆に言えば、DMを使って分子の外形が正しく描けないような重原子同型置換体ではたかが知れているということです。さっさと次の重原子同型置換体を探した方がよろしい。
図に示したのは、SeMet を用いたSIRによる電子密度にDMを適用して得られた電子密度図です(データは、実験室のR-Axisを用いて集めたもので、位相の計算に異常分散の効果は入っていない)。この電子密度図と実際の立体構造を比較すると、分子の外形としては十分な情報を持った電子密度図であることがわかります。ただし、この電子密度図は解釈することは不可能です。あまりに不明瞭な部分が多すぎます。要するに、不明瞭な部分が増えれば、電子密度図の解釈は、指数関数的にやっかいになってしまい、事実上できません。しかし、きちんと正しく(といか、正しい方向で)初期位相が決まっていれば、このような分子の外形を決定することは比較的たやすくできるのです。逆に言えば、このようにきちんと分子の外形が決められると言うことは、初期位相が(だいたい)正しく決まっているということです。ですから、得られた位相を用いて差フーリエ法で他の重原子同型置換体の重原子サイトを決めることができます(能率を上げよう!)。
DMを使って得たBphCの分子の外形